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奈良の『睡龍』『生酛のどぶ』を醸す久保本家さんのお酒に出会ったのは、平成16年春のことでした。
ただお酒が好きで、とりあえず酒販店の仕事をこなす毎日だった私にとって、お酒との決定的な出会いとでもいうような出来事でした。
なんとなく漫然と飲んでいた他のお酒とは違う、ただのお酒の味わいを超えて、造った人の「意志」というか「気」のようなものを感じたように思えて、ずっとそれがなんだったのか気になっていました。
それから、こんなお酒を造る杜氏さんに絶対会いたいと思って、加藤杜氏にお会いすることができました。
お酒を造っていないときの加藤杜氏は、豪快にお酒を飲む・関西弁?で大きな声で喋る・急にはにかむ・大笑いする・ちょっと無茶なことをする、なんともつかみどころがない方。どうしてあんなに繊細な味わいのお酒を造れるのかお聞きしてみたら、「よく酒と比べて、顔出さん方がええって言われます」……そんな意味で言ったんじゃなかったんだけど。
先日やっと念願がかなって、加藤杜氏のお酒造りの現場にお邪魔することができました。
1泊2日で文字通り「邪魔」をしに行ってしまいました。
造りの忙しい最中に、普通はこういうことをしちゃいけないんだろうな……と思いながらしつこい私の粘り勝ちです。
酒蔵で見る加藤杜氏は普段の1.5倍位大きく見えました。オーラってこういうこと?
38キロもあるという暖気樽をむんずとつかんで持ち上げるさまや、酒母をじっと見つめる目、麹の切り返しをする様子は、同じ人間であってそうでない、酒造りの世界に入り込んだ別の生き物、そんな印象すら感じました。
でも、ちょっと話すといつもの加藤杜氏。
にやにやしながら「大塚屋さん、うちの麹室は、女性は黒のレオタードでないと入れんのです」。もう……、せっかく酒造りの最中の加藤杜氏に魅入っていたのに。
くやしいから「じゃあ、ビキニ持ってきたら来年麹室に入れてもらえますか?」と、思わず言ってしまって失敗。でも麹室、2回目に少しだけ入れていただけました。
久保本家さんの酒蔵は清潔極まりない。徹底した洗い仕事と、掃除の繰り返し。酒造りの基本中の基本であるとは、よく本に書いてあることだけれど、ここまで徹底することは難しいと思います。これはもう誰が評価するわけではない、ただ自分に妥協しないことの表れだと思います。
蔵人さんたちは、食事の最中に寝てしまうほど疲れもピークに達しているというのに、仕事に手を抜かない。ある種のピンと張ったような空気の中で黙々と作業をこなす。
ああ、こんな風にお酒ってできるんだ……。そう思ったら、もっともっとお酒に愛情が湧いてきました。
そんなふうに神妙な気持ちで、酒母の櫂入れを手伝わせていただいていたら、加藤杜氏は「はい、大塚屋菌混入でタンク一本お買い上げ~」などと仰る。もうっ、これ純米大吟醸なんですよ。うちのお店破産しちゃいます。
今年のお酒の造りは、どこのお蔵も気温が下がらなくて大変だと聞いています。地域によっては台風の影響でお米のできも良いとか悪いとか。
でも、そんなことはきっとでき上がるお酒の本質には関係がないのではないか、という気がしてきました。造る方の気持ちしだい、私はそう信じています。
京子
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